「リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」
これはドラッカーが残した名言のひとつです。
企業はもちろん、どのような組織であっても「リーダー」は、
- 「方針を決めること」
- 「ゴールを決めて部下に示すこと」
- 「きめ細やかにフォローすること」
に集中すべきです。
また、リーダーに求められるのは自分自身の実績ではなく「組織としての成果」です。
そのため、部下のモチベーションを保ち続け、組織目標に向かって自発的に動いてくれる…、つまり「能動的なフォロワー」を何人作るかで組織の成果は決まってくるともいえます。
部下のパフォーマンスを低下させる目標設定とは?
実際のビジネスの現場では上司から掲げられた方針や目標に対し、モチベーションを保ち続けているケースは少ないのも事実です。
以下のデータは2019年6月に人材コンサルティング会社大手の「エン・ジャパン株式会社」が20代・30代中心の11,286名に調査したアンケート結果です。
この調査のなかで「上司に期待していることは何ですか?」という設問がありますが、目標設定に関わる注目すべきなのは
- 「公平・公正に評価してくれる56%」
- 「具体的なアドバイスをくれる51%」
- 「的確なゴール設定をしてくれる29%」
という回答です。
この設問は「どんな上司、どんな目標だったらモチベーションが下がりますか?」と読み替えることもできます。
部下のやる気を失う目標管理してませんか?
たとえば、部下がやる気を失う目標管理のやり方として以下のようなケースが考えられます。
- 「メンバーごとに目標の難易度が違う」(※公平性に欠ける)
- 「ゴールが見えずアドバイスをしてくれない。ただ“やればいいんだよ”という姿勢」
- 「目標達成に悩んでいても真剣に耳を傾けてくれない」
部下のパフォーマンスを最大化するための目標設定方法とは?
では、組織として最高の成果を上げるためには、メンバー個々の目標をどのように設定すべきなのでしょうか。
適切な部下の目標設定には3つのポイントがあります。
1.公平性が保たれていること
さきほどのアンケート結果にもあったとおり、部下のモチベーションダウンを招く原因のひとつに「目標設定が公平ではない」という点があげられます。
部下のやる気を最大限引き出すには、目標の透明化が必要です。
目標を課せられた部下は、どうしても他人の目標が気になるもの。
できる限り納得性のある、そして公平な目標を設定するためには、ひとり一人の目標を公開することも効果的かもしれません。
実績を公開する必要はありませんが、目標を全員が知る仕組みを作ることで、不公平な目標が設定されることも防げるでしょう。
また、目標を設定する上司が、適当な目標を設定したり「えこひいきする」といったことも防げるかもしれません。
2.ムーンショットではなくルーフショットであること
目標設定には、さらなる高みを目指す「ムーンショット」と、少し頑張ったら手が届く「ルーフショット」という2つの考え方があります。
このあとご紹介する目標設定の方針(※MBOやOKR)によっても目指すべき目標は変わってきますが、個人のパフォーマンスを最大化するためには「前年比」「前月比」で、105~110%程度の数値目標を掲げるのが適正といえます。
3.社会的意義があること
目標達成に導く手段として「インセンティブ」を用いる企業があります。
たしかに、短期的な瞬発力を求める場合は高額なインセンティブは効果的かもしれません。
ただ、このあと触れる「ゆとり世代」「ミレニアル世代」と呼ばれる部下たちの原動力は「お金ではない」ケースがあります。
目指すべき目標としてぜひ掲げたいのは「社会的意義」です。
さまざまな業態の企業があるなかで難しいかもしれませんが、目標を達成することで得られる「社会貢献度」「人としての成長」も、部下のモチベーションを長期的に保つ上でも有効です。
ミレニアル世代の部下にやる気を出してもらうには
メンバー全員のモチベーションを維持していくうえで悩みの種になるのが、「ミレニアル世代」の存在です。
ミレニアム(新千年紀)が到来した2000年前後か、それ以降に社会に進出する世代という意味で、ミレニアル世代(英: Millennial Generation)、あるいはミレニアルズ(英: Millennials)とも呼ばれる。
Wikipedia
インターネット普及前の時代に生まれた最後の世代で、幼少期から青年期にIT革命を経験したデジタルネイティブの最初の世代でもある。
ゆとり世代として育ってきたミレニアル世代の部下に目標を掲げても「別に組織の評価が悪くても、自分のやることをやりますから」と言われ、コミュニケーションが足りないと飲みに誘うと「酒は飲まないしプライベートでも色々忙しいんで」と断られるなど、悩みを抱えておられる上司も多いのではないでしょうか?
そのような悩みが多いビジネスの現場で、ぜひ試して頂きたいのが「逆評価制度」です。
逆評価制度とは?
企業では上司が部下を評価するのが一般的ですが、「逆評価制度」は部下が上司を評価します。
また、上司⇔部下の関係だけではなく、他部署の人を評価する360度評価制度も有効かもしれません。
大切なことは、ミレニアル世代が感じていること、求めていることを「理解する」ことです。
さきほどもお伝えしましたが、ミレニアル世代のなかには多くの報酬は求めず、社会的に意義がある仕事ならモチベーション高く取り組んでくれるメンバーもたくさんいます。
新型コロナウィルスの脅威や、AIが仕事の根幹を変えつつある昨今、部下を指導する上司にも意識改革が必要です。
「最近の奴は」とか「協調性がない」などと嘆き、自分の考えを部下に高圧的な態度で押しつける時代はとっくに終わっています。
先が見えないVUCA(※ブーカ)時代においては、幹部自身が意識変革を遂げる必要があるのではないでしょうか。
VUCAブーカとは?
先が見えない時代を示す造語で、以下の頭文字からとられたもの。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雜性)
- Ambiguity(曖昧性)
組織として成果を出すための目標設定の考え方
ここで、組織としてのパフォーマンスを最大化するための2つの目標設定方法について、少し考えてみます。
MBO
ひとつ目は「MBO※エムビーオー」という目標管理制度です。
「MBO」はドラッカーが提唱した目標管理の方法ですが、「Management By Objective」の略です。
具体的には企業が目指すべき目標を掲げ、企業の目標に社員ひとり一人の目標をリンクさせていきます。
そうすることで、上司と部下がひとつの目標に向かって進むことができるようになります。
また、個人は目指すべき会社の目標を細分化して自分の目標を定めることができ、個人評価に応じて評価も決まるので非常に納得性の高い目標管理の運用が可能です。
とくに、社会的意義のある事業を営んでいる企業においては、ミレニアル世代のパフォーマンスを最大化するための目標管理方法として最善かもしれません。
OKR
OKRとは、「Objectives and Key Results」の略語です。
OKRの活用はGoogleやFacebook、メルカリやSANSANでも導入されています。
OKRは「O」「KR」に分けることができ、それぞれ以下のような意味があります。
O「Objectives」
おもに定性的なシンプルで覚えやすい目標。
1~3ヶ月程度で評価できるように目標を設定する。
カンタンでモチベーション高く取り組めるように目標を設定することがポイント
KR「Key Results」
定量的な目標。
おもに組織全体が目指すべき数値(ムーンショット)が設定され、60~70%の達率で成功とみなされる
目標設定をする場合、「MBO」で設定するか「OKR」の考え方を使うのかは、それぞれの企業や組織の特性によって異なってきます。
それぞれの違いは以下のとおりですが、個人のパフォーマンスを最大化するためにはMBO、組織としての成果を求めるならOKRといった簡単な使い分けもできるかもしれません。
MBOとOKRの違い
MBO | OKR | |
---|---|---|
目的 | 個人評価に重きを置いている | 組織評価に重きを置いている |
評価サイクル | 6ヶ月、1年 | 3ヶ月(組織全体の進捗度合いにより目標が見直されることもある) |
達成基準 | 個人目標がメインのため100%で達成 | 挑戦的な目標設定のため60~70%で達成 |
まとめ|進捗管理とフィードバックも重要
最後に、部下のパフォーマンスを最大化するための「進捗管理」についても触れておきたいと思います。
ここで、さきほどご紹介したアンケート結果をもう一度見て頂きたいと思います。
スタッフの意見として比較的多かったのは
- 「自分の考えや意見に耳を傾けてくれる」
- 「公平公正に評価してくれる」
- 「具体的なアドバイスをくれる」
というものでした。
上記のような的確なフィードバックをするためには、定期的な面談がとても重要になります。
「リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」というドラッカーの言葉のとおり、目標を定めたあとはそれを「維持する」ことがとても重要です。
定期的な面談を通じて部下の本音を引きだし、進捗度合いについて定期的なフィードバックをする時間を確保すること、これが上司に求められる最も大切な仕事なのかもしれませんね。