部下育成に発達心理学を応用する

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今回は「発達心理学から見た部下の育て方」について解説していきます。

  • 「自分のことしか考えない部下に困っている」
  • 「部下の意識を変えられない」

こんな悩みを持っている上司の方々は多いのではないでしょうか?

部下育成に役立てたい心理学というと「アドラー心理学」が有名です。

ですが、今回はハーバード大教育大学院教授で組織心理学者でもある「ロバート・キーガン(Robert Kegan)」が唱える「発達心理学」を、部下育成に活用してみましょう。

「意識が変われば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わる…」

という言葉がありますが、部下の意識を変えるのはそう簡単ではありませんよね。

今回はそんな部下の育成でお悩みの上司に、発達心理学の観点からアドバイスします。

それでは見ていきましょう。

発達心理学とは?

発達心理学は複雑ですが、簡単にいうと次のように要約できます。

・人間の知識や意識は成人してからも常に成長・発達していく

・成長には段階があり、段階ごとに見える景色は異なる

・人を成長に導くためには、成長段階の意識を理解することが重要

・「段階が低い=意識が低い=悪い」と、レベルが低いことを否定してはならない

その中で、発達心理学は「人の意識には段階がある」と説いています。

人の意識には5段階ある

発達心理学における5つの発達段階の画像|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

キーガンが唱える発達心理学では「5段階の意識レベル」が唱えられていますが、はじめの「1段階目」は未成年のステージでよく見られる意識段階です。

順を追って見ていきましょう。

発達段階-2 利己的な考え方

発達段階-2 利己的な考え方|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

この段階に位置している人は、成人人口の約10%と言われています。

発達段階「2」のレベルにいる人は、自分の関心事や欲求を満たすためだけに意識が集中する傾向があります。

「成人人口の約10%」ですから、自分の部下に当てはめると「あ~1割程度の部下は、ほんとに自分のことしか考えてないな」という実感がわくかもしれません。

しかし、そんな部下も悪気があってそうなっているのではなく、「そもそもの意識が2段階目にきているだけ」なのです。

まずは、自己中心的な部下を否定するのではなく「理解する」ことからはじめましょう。

発達段階-3 他者依存の考え方

発達段階-3 他者依存の考え方|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

実は3段階目にいる部下がもっとも多く、育成が難しいレベルの部下かもしれません。

発達段階「3」の部下の特徴は「他者依存」です。

つまり簡単にいうと

  • 「言われたことしかやらない」
  • 「能動的に動けない意識」

の部下です。

他者依存段階にいる人の層は成人人口の70%ですから、10人の部下を抱えている上司のみなさんは、7割の「他者依存部下」を育成することになります。

ただ、この段階にいる部下も否定する必要はありません。

「上司に言われたからやる」という意識は一見否定的にとらえられがちですが、逆の見方をすると「指示をきちんと守る部下」と考えることができるかもしれません。

発達段階-4 自己の考え方を主張し行動に移せる

発達段階-4 自己の考え方を主張し行動に移せる|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

発達段階「4」の人は、全体の20%程度です。

この2割をご自身の組織にあてはめるとわかりやすいかもしれませんが、ご自身が抱えている部下の約2割は「次期リーダー層」であるケースがほとんどでしょう。

発達段階「4」にいる人たちは、自分なりの意思決定ができるレベルに来ており、自分の意思決定を行動に移すことも容易です。

したがって、この段階まできてようやく「勝手に育つ部下」になれるのです。

逆に考えると、自分が抱える部下の8割は「手取り足取りサポートしないと育たない部下」と考えることもできます。

発達段階-5 他者成長に意欲が出てくる

発達段階-5 他者成長に意欲が出てくる|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

発達段階「5」の層は、全体の約1%程度です。

つまり、この段階にいる人は「この記事を読んでいる上司の方々の層」かもしれません。

発達段階「5」のレベルまでくると、自分の成長を続けることに関心を寄せつつ、「まわりの人間に影響を与えること」にベクトルを向けるようになります。

部下の意識レベルを理解する

部下の意識レベルを理解する|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

結論からいうと、「それぞれの意識レベルを理解した指導をすべき」なのです。

ですから、「意識の低い部下を否定せずに一段高い意識を持つように育成しなければいけない」ということです。

例えばよく一般社員に

「経営者目線を持て!」

と言っている上司がいますが、一方でほとんどの上司は

「経営者目線を持てと言っているのに、なかなか部下の意識が変わらない」

と悩んでいるのが普通です。

発達心理学で忘れてはいけないのは、

「下の段階にいる人は上の段階にいる人の考え方が理解できない」

という点です。

さきほど「経営者目線を持てといっているのに、部下の意識が変わらない」というのは、まさにこの原理なのです。

上司は、「そもそも部下の意識には段階があると理解する」べきなのです。

発達心理学を部下に応用する

発達心理学を部下に応用する|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

では実際に発達心理学を部下育成に役立てる場合、

「あいつは意識が低いからダメだ!」

と最初から否定するのはNGです。

発達心理学を参考すると、

「この部下は〇段階にいるから、〇〇な指導法が必要なんだな」

と、はじめから部下の意識段階を受け入れることが重要です。

その1|部下の育成には「覚悟」が必要

その1|部下の育成には「覚悟」が必要|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

発達心理学を応用して部下を育成するためには「覚悟」が必要です。

つまり「部下は勝手に育つもの」「自分から意識向上できない奴はダメだ」といった気持ちを捨てて、強い意志を持って部下の意識レベルを上げる努力が上司には求められます。

ここで発達心理学について書かれた論文のなかに、興味深い一文がありましたのでご紹介したいと思います。

以下は近畿大学経営学部の「李 超氏」と、滋慶医療科学大学院大学の「狩俣 正雄氏」が書かれた論文の一部ですが、この論文のなかには「革新的な環境(組織)を作るためには、一般的な組織とは異なる文化を育む強い意志が必要」と書かれています。

「キーガンとレイヒーによると,これら12の革新的な特徴が根づく環境を作るためには,一般的な組織とは異なる文化を育もうとする強い意志がなくてはならない。求められるのは,個人の成長を手段ではなく目的と位置づけ,失敗と不出来を弱点克服のチャンスとみなし,職場の強力なコミュニティを,個人と組織の可能性を開花させるために必要な混乱を経験できる場と考えるような文化である」

引用:〈論文〉経営者の意識の発達と最高の組織作り

その2|部下に「気づき」を与えることが必要

その2|部下に「気づき」を与えることが必要|登りつめる写真|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

山登りをやり始めたばかりの部下は、「山の中腹から見える景色」はもちろん「頂上から見える景色」も見たことがありません。

さらにいうと、登山の初心者であれば「山の登り方がわかっていないケース」もあり得ます。

そんな山のふもとにいる部下に、「お前のレベルは低い!」と言っても「は?なぜですか??」となるのは目に見えています。

発達心理学でいう「意識段階―2」のような若年層の部下には、まずは「山の中腹から見える景色がどんなものか?」を教えてあげることが大切です。

つまり今の段階から成長したときの「仕事の可能性」「収入が増えること」などについて、上司が夢を語る必要があるということなのです。

よく人材育成や部下育成で大事なこととして「部下に夢を語る」重要性が説かれるのは、そもそも部下の意識を強制的に変えるのは無理であり、部下に気づきを与えることが重要だからです。

上司は部下に夢を語り、部下はそこから気づきを得て能動的に意識レベルを上げてもらう必要があります。

■あわせて読みたい部下への指示が伝わらない3つの理由

山のふもとにいる人は頂上の景色がわからないもの

山のふもとにいる人は頂上の景色がわからないもの|登山の写真|部下育成に発達心理学を応用する|KEN'S BUSINESS

登山をやりはじめた人(組織論では20代の若い部下)は、山の中腹にいる中間管理職の気持ちはわかりませんし、中腹から見える景色も見たことがありません。

また、さらにその上の頂上にいる「経営層から見える景色」も見たことがないので、「そもそも理解ができない」のです。

部下が変わってくれないとイライラする気持ちはわかります。

しかし、その一方で「そもそも意識が変わるのには段階がある」と、ゆっくり構える気持ちも大切なのです。

まとめ

今回の記事では、発達心理学から見た部下の育て方、そして具体的な意識レベルの特徴や上司が心がけるポイントを簡単にご紹介しました。

それぞれの段階における上司の接し方については、別の記事で触れたいと思いますが、どんなレベルにある部下に対しても大切なのは「部下へ気づきを与えること」です。

「人は変えられない、変えられるのは自分だけ」とはよく言ったものです。

部下の意識を変えたいなら、まずは上司自身の意識を変えることから始める必要があるかもしれませんね。

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