「昇進の話、今回は辞退します」で評価を落とした人、落とさなかった人――現場20年の課長が見た分かれ目

「昇進の件ですが、今回は辞退させてください」。先月、うちの若手がそう切り出してきた。表情はいくらか硬かったが、目はまっすぐこちらを見ていた。数字も評価も悪くない、むしろこの一年でいちばん伸びていた一人だ。だからこそ、辞退の理由を聞いたとき、正直こちらも一瞬言葉に詰まった。「責任が増えるのが、今の生活のペースと合わないんです」。

現場を20年やっていると、こういう場面には何度も立ち会ってきた。ある調査では、20〜30代の52.6%が「管理職になりたくない」と答えており、最大の理由は「責任が重すぎる」ことだという。うちの部署だけの特殊な話ではなく、いまはどこの職場でも普通に起きていることなのだと思う。

世の中のキャリア記事の多くは「昇進すべき理由」を並べる。だが実際に現場で困っている若手が知りたいのは、そこではない。昇進を断っても評価を落とさない伝え方、断ったあとに気まずくならない立ち回り――この実務の部分を教えてくれる記事は驚くほど少ない。今日は、実際に昇進を辞退した部下たちを何人も見てきた課長の立場から、その「その後」を具体的に書いていきたい。

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断られたこと自体は、実はそこまで気にしていない

先に上司側の本音を明かしておくと、多くの管理職は「断られた」という事実そのものにはさほどこだわらない。こちらも人を見て打診しているので、本人の生活や適性を無視してまで押し通したいわけではないからだ。根に持つとしたら、断られたことより「断り方」のほうだ。唐突すぎる、逃げ腰に見える、あるいは会社や上司のせいにするような断り方をされると、能力への評価とは別のところで心証が悪くなる。これは感情論というより、「この人にこの先も重要な話を任せて大丈夫か」という信頼の問題として響いてしまうからだ。

評価を落とす断り方、落とさない断り方の分かれ目

これまで見てきた限り、分かれ目は大きく二つある。ひとつは「タイミング」。打診されてその場で反射的に断る人と、少し時間をもらって自分の考えを整理してから改めて伝える人とでは、同じ「辞退します」でも受け取られ方がまるで違う。もうひとつは「理由の見せ方」。「責任が嫌だから」という自分都合の理由をそのまま口にするか、「今はここに集中して貢献したい」という前向きな理由に変換して伝えるかで、印象は大きく変わる。事実として同じことを言っていても、である。

NGな言い方 評価を落としにくい言い方
「正直、荷が重いので今回はやめておきます」 「今のプレイヤーとしての強みをあと1〜2年伸ばしたうえで、挑戦したいと考えています」
「responsibilityが増えるのは避けたくて」 「いまは〇〇の案件に集中させていただく形で、いちばん貢献できると思っています」
「そういうのは向いていないので」 「マネジメントの適性はまだ自分でも見極めきれていないので、もう少し現場で経験を積みたいです」

実際に使える、角を立てない断り方のフレーズ例

場面ごとに、実際に部下から言われて「なるほど、うまいな」と感じたフレーズをいくつか紹介する。

1on1でその場で打診されたとき
「ありがたいお話です。ただ即答できるほど軽い話でもないので、少し考える時間をいただけますか。〇日までにはお返事します」
その場で断らず、いったん持ち帰る姿勢を見せるだけで印象は大きく変わる。

正式に辞退を伝えるとき
「今回のお話、自分を評価していただいた結果だと受け止めています。そのうえで、今は現場でもう少し実績を積んでからのほうが、チームにも自分にもいい形で貢献できると思い、辞退させてください」
評価への感謝を先に置くことで、拒絶ではなく前向きな選択として伝わりやすくなる。

後日、念を押すように聞かれたとき
「気持ちは変わっていません。ただ、また機会があればぜひ考えたいと思っているので、そのときはお声がけいただけると嬉しいです」
「今回は」という時間軸を保つことで、永続的な拒否ではなくタイミングの問題として扱ってもらいやすくなる。

断ったあとこそが本番――気まずくならない立ち回り

断って終わり、ではない。むしろ現場を見ていると、辞退したあとの数ヶ月の振る舞いのほうが、長い目で見た評価を左右している。

ひとつ目は、辞退後も普段以上に成果で語ること。「断ったから手を抜いている」と見られることがいちばんもったいない。ふたつ目は、昇進した同期や後輩を素直に応援する姿勢を見せること。ここでぎこちなさが出ると、辞退の理由が「本当は嫉妬だったのでは」と勘繰られてしまう。みっつ目は、「今回は」という言い方を辞退の時だけでなく、その後の会話でも一貫して使い続けること。一度きりの意思表示で終わらせず、いつでも状況が変わり得ることを、態度でも示し続けるということだ。

昇進を断ることは、キャリアを諦めることではない。伝え方とその後の立ち回り次第で、「自分のペースを大事にできる人」という評価にも、「都合が悪くなると逃げる人」という評価にもなる。差を分けているのは意欲の有無ではなく、ほんの少しの言葉の選び方だと、現場で20年見てきて思う。断ったあとの評価が気になっている人は、まず今日書いたフレーズをひとつ、次の会話で試してみてほしい。

評価という意味では、日々の小さな信頼の積み重ねが土台になる。この点は気づけば「できる人」から辞めていく職場だったでも書いたので、あわせて読んでみてほしい。

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