「部下が本音を話さないのは、あなたのせいじゃない」――新任マネージャーが抱える罪悪感の正体

係長から課長に上がったばかりの後輩から、先日こんな相談を受けた。「1on1はちゃんとやってるんです。でも本音っぽい話が全然出てこなくて。自分のやり方が悪いんですかね」。声のトーンが完全に落ちていた。彼だけじゃない。新しく管理職になった人と話すと、驚くほど高い確率でこの手の自責の言葉が出てくる。今日はこの「自分が悪いんじゃないか」という感覚について、現場一筋20年の立場から書いてみたい。

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なぜ部下は本音を話してくれないのか

「心理的安全性」という言葉を最初に聞いたとき、正直ピンとこなかった。だが調べてみると、これは単なる流行り言葉ではなく、Googleが4年近くかけて社内チームの生産性を分析した「プロジェクト・アリストテレス」という調査から出てきた、かなり地に足のついた概念だとわかった。結論は意外とシンプルで、「このチームでは弱みを見せても大丈夫だ」とメンバーが感じられるかどうかが、パフォーマンスの差を分けていたという話だ。

逆に言えば、部下が本音を話さない状態というのは、その部下の性格の問題ではなく、「ここで本音を出したらどうなるかわからない」という不確実性を感じている状態だということになる。ある調査では、1on1で率直に話せていると答えた部下は半数に満たず、話せない理由の上位には「評価への影響」や「信頼関係への不安」が挙がっていた。評価する側とされる側という関係がある限り、部下が身構えるのはある意味で自然な反応なのだと思う。

世代差の話も無視できない。今の若手は、失敗を恐れて自分の考えを開示すること自体に慎重な傾向があるという調査結果も出ている。上司に「言い方を工夫してほしい」と感じても直接伝えられない若手が8割近くにのぼる、というデータもあった。これは「今どきの若手は本音を言わない」と説教するためのネタではなく、上司世代とは前提としているコミュニケーションのルールがそもそも違う、と理解しておくべき話だと思う。

「自分のマネジメントが下手だから」ではない

ここまで読むと、「じゃあやっぱり自分の場作りが下手なんだ」と思うかもしれない。だが、少し待ってほしい。

新任管理職の相談に乗っていて感じるのは、彼らが向き合っている壁のほとんどが、個人のスキル不足ではなく構造の問題だということだ。プレイヤーとして評価されてきた人が、ある日突然「聞く側」「引き出す側」に回れと言われる。しかも部下との関係は、その人が管理職になった瞬間からではなく、その職場のこれまでの歴史全部を背負ってスタートする。前任の上司がどう部下に接してきたか、評価制度がどう運用されてきたか、下手をすると何年も前に辞めた誰かの一件まで、部下の警戒心の中には積み重なっている。

実際、僕がこれまで見てきた「誰も本音を言わない職場」の多くは、特定の管理職一人の責任というより、お局や社内の主のような、誰も逆らえない空気が長年かけて出来上がっていた、というケースがほとんどだった。新任マネージャーが背負っているのは自分が作った問題ではなく、組織がこれまで積み重ねてきた「話しても仕方ない」という空気であることが多い。それを着任半年やそこらで一人で背負い込んで、「自分のせいだ」と結論づけるのは、正直言って荷が重すぎる。

話したくなる場をつくる、具体的な工夫

とはいえ、「構造の問題だから仕方ない」で終わらせるつもりもない。管理職に、できることは確かにある。ただしそれは「話させる」テクニックではなく、「話したくなる」条件を整えることだと思っている。

  • 評価と切り離す――1on1の冒頭で「ここで話したことは人事評価には使わない」とはっきり言葉にする。当たり前のようだが、これを毎回言葉にしている上司は意外と少ない。言わなければ、部下は「そうは言っても評価されるんだろう」という前提のまま話すことになる。
  • 話す割合を逆転させる――上司が話す時間は2〜3割、部下が7〜8割くらいのつもりで臨む。沈黙が気まずくてつい喋ってしまう気持ちはわかるが、その沈黙を埋めるのは部下の役目にしておく。
  • 雑談から入る――いきなり本題に入ると、部下は「詰められる」モードで身構える。天気でも週末の話でもいい、数十秒でも雑談を挟むと空気がやわらぐ。
  • 場所と頻度を変えてみる――会議室での対面が苦手な人もいる。歩きながら、オンラインで、時にはランチをはさんでなど、選択肢を用意しておくと話しやすくなる部下もいる。

言葉にならないサインを拾う力も大事になる。「相手の困りごとに気づく力」は才能ではなく、鍛えられる技術のひとつだ。表情が曇った、返事が一拍遅れた、いつもより口数が少ない――そうした小さな変化を拾えるようになると、1on1の場そのものに頼りすぎなくて済むようになる。

特に自分から発信するのが苦手なタイプの部下には、日報や1on1の記録を見える化する仕組みを用意しておくのも有効だと思う。その場で言葉にできないことを、別のルートで拾える経路を持っておくということだ。

現場で見てきた「本音を引き出せる上司」と「引き出せない上司」の違い

20年もこの仕事をしていると、部下からよく話を聞けている上司と、まったく話を聞けていない上司の両方を、嫌というほど見てきた。

引き出せない上司に共通していたのは、部下の話を「評価」しながら聞いていたことだ。話の途中で「いや、それは」と結論を挟んでくる。部下からすれば話す前から採点されているようなものだから、当然そのうち当たり障りのないことしか言わなくなる。

逆に引き出せていた上司は、たいてい「わからないことを素直にわからないと言える人」だった。「それ、正直よくわかってなかった」「そこは俺も自信ない」と言える上司の下では、不思議と部下も本音を出しやすくなる。弱さを見せることと、頼りなく見えることは違う。むしろ完璧を装う上司の方が、部下からは静かに距離を置かれていた。

新しく管理職になったばかりの人に伝えたいのは、「本音が出てこない=あなたが下手」という単純な図式では測れない、ということだ。焦って結果を出そうとするほど、部下は「詰められている」と感じて口が重くなる。まずは自分を責める前に、目の前の沈黙がどんな構造の上に成り立っているのかを、少し引いた目で眺めてみてほしい。それができるようになった時点で、もう半分くらいは前に進んでいる。

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