「気にするな」と言われて気にならなくなった試しがない
「そんなの気にするだけ損だよ」――若手の頃、先輩からよくそう言われた。慰めのつもりだったんだろうし、実際そのとおりだとも思っていた。でも、頭では分かっていても、上司の一言や同僚の態度が気になって夜中に目が覚める、なんてことは何度もあった。「気にするな」で気にならなくなるなら、誰も苦労しない。
この記事で書きたいのは、精神論としての「気にしない」ではなく、頭の使い方としての「気にしない」だ。性格を変える必要はない。ちょっとした仕分けのクセをつけるだけで、引きずる時間はかなり減らせる。
なぜ職場の一言が、家に帰っても頭から離れないのか
厚生労働省の調査でも、仕事上の強い不安や悩みの原因として「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」を挙げる人は約3割にのぼる。数字だけ見ると「そんなものか」と思うかもしれないが、裏を返せば、残り7割の悩みの種になっている業務上のミスや量の問題は、寝る前にはたいてい忘れられる。人間関係だけが、妙に長く尾を引く。
理由は単純で、人間関係の引っかかりには「正解」がないからだ。仕事のミスなら次にどう直すか考えれば終わる。だが「さっきの言い方、どういう意味だったんだろう」という疑問には、確かめない限り答えが出ない。答えの出ない問いを頭の中でぐるぐる回し続けること自体が、いちばんのエネルギーの無駄遣いになる。
「気にしない人」がやっているのは、我慢じゃなくて仕分け
職場で人間関係にあまり振り回されていないように見える人を観察していると、共通しているのは「我慢強さ」よりも「仕分けの速さ」だ。何か引っかかることがあったとき、それが「自分が動けば変えられること」なのか「相手の機嫌や性格の問題で、自分にはどうにもできないこと」なのかを、かなり早い段階で判断している。後者だと判断がついた瞬間、それ以上考えるのをやめる。
これは冷たさではなく、労力の配分の問題だ。変えられないことに時間を使うのをやめれば、その分の余力を、変えられることに回せる。
実際に効いた、頭の中の仕分けルール
俺自身が今も使っているのは、次の3つの問いだ。何か引っかかったとき、この順番で自分に聞く。
①それは今日中に確かめられることか。確かめられるなら、翌朝一言聞いてしまう。「昨日の件だけど」で十分だ。確かめようがないなら、次の問いに進む。
②相手はこれを覚えているか。正直、大抵の場合、相手はもう覚えていない。自分だけが引きずっているケースが驚くほど多い。
③これは相手の問題か、自分の問題か。虫の居所が悪かっただけ、口調がもともときつい人だった、というのは相手側の事情であって、自分の評価とは関係がない。ここを混同すると、際限なく気にし続けることになる。
この3つを通した結果「考えても仕方がない」に着地したら、それ以上は考えない。考えないと決めることも、立派な対処のひとつだ。ドライに割り切るという方向性については、別の記事でも具体的な方法をまとめている。
それでも引っかかる日のための、最後の逃げ道
仕分けをしても気持ちが収まらない日は、正直ある。そういうときは、無理に「気にしない自分」を演じようとしないほうがいい。誰かに軽く話す、体を動かす、単純にその日は早く寝る――気を紛らわせる手段を、あらかじめ二つ三つ持っておくくらいがちょうどいい。「気にしない技術」と「気を紛らわせる技術」は、両方揃って初めて効いてくる。
気にしないことは、冷たいことじゃない
気にしないというのは、人間関係そのものを軽んじることではない。むしろ、本当に大事にしたい人間関係のために、どうでもいいことに使うエネルギーを削っているだけだ。全部を丁寧に受け止めようとするから疲れる。仕分けて、手放していい分は手放す。それだけで、職場での消耗はだいぶ変わってくる。
